まりもこもこ【裏】

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【書評】意味の探求

大学時代の教授曰く、「人生についての本で、古典でないものを読みたいならとりあえずこれかなー」。

 とまあ、ちょっと自信なさげに勧められた本を、今更ながら読んでみた。

 

この本は、英国のオープン・ユニバーシティ(日本でいうところの放送大学みたいなやつ)における哲学教程のための教科書として執筆されたらしい。

 

『意味の探求』というタイトルは、「人生の意味の探求」を意味している。

この本を概要は序章に明確に書かれているので、少し長いが引用しよう。

 

 …本書の前半部(1章から4章まで)では、人生を無意味なものと考えさせやすい人生の様々な局面、苦しみや死、人類の目的に関する困難について論ずるつもりである。これらの事柄について考察することにより、私達は人生の価値やその「尊厳」に対して疑問を抱くように導かれるのだが、この点については4章、5章で論じる。人生に意味を見出すための一つの道は「自己実現」すなわち自分の本質的な性質に従って生きることである。本書の後半部(6章から10章)では、この自己実現をその主要なトピックとして取り上げる。そこでは、自然、社会、幸福、理由、自由という概念から導き出された「よい人生」を送るためにさまざまな処方箋が提示され、同時にアリストテレス、ルソー、カント、ミル、サルトルといった思想家たちの主張が再吟味される。

このようにあるが、実は少し注意が必要で、この本として「これが人生の正解ですよ」といったような明確な答えは、(残念ながら?)出てこない。

むしろ、「こういう考え方やああいう考え方があるけど、こういう問題があるので、あれもこれも正解とはいい難い」とか、「〇〇の考え方はこのような点で優れているが、この部分はダメだ」みたいな論述が結構延々と続くので、何か明確な答えを期待している人にとっては、何が正しいのだかわからなくてイライラさせられるかもしれない。

 

先述したとおり、この本はあくまで教科書である。おそらく、いろいろな思想家の考え方が浅く広く紹介し、「詳しいことは自分でさらに調べてね」というスタンスで執筆されている気がする。だから、人生論の哲学(ニッチな分野だが)の入門者が、これをササッと読んでみて、「この思想家の考え方に刺激をうけた」というものに対して、さらに学習を進めていくとよいと思う。

(そうすると、けっきょく大抵は古典に行き着いてしまうのだが笑)

 

個人的には、モーリツ・シュリックなる人物の考え方に、感銘というか共感を覚えた。

「生活に目的思考を参入させること、目的の網の目の中に取り込まれてしまうこと、それは人間が真に堕落する前兆である」(孫引き)

もし人生の意味が目的ではなく行為そのものにあるとすれば、言い換えれば、それ自身のためにあるとすれば、目的を追いかけるあまりに空虚な循環にとらわれることもなくなる(ただし、「それ自身のために」という言葉は、必ずしも判然としたものではない)。

目的のなさ、いわば「遊び」にこそ、ちょっとミソがある気がする。奇しくも、この本の一番最後は、この遊びに生きる人間、すなわちホモ・ルーデンスについて触れられている。これがこの本の一応の結論となっているので、実際に読んでいただきたい。